日本語で読める注解書シリーズ

聖書を深く学ぼうとするときに、重宝するのが注解書です。ただ、日本語で読めるシリーズとなると、選択肢はそれほど多くありません。代表的なものは、次のとおりです。

まず、日本語で書き下ろされたシリーズです。新教出版社の『現代新約注解全書』は1960年代から刊行が続いており、佐竹明、田川建三、荒井献といった名だたる研究者が執筆しています。より新しいものでは『VTJ旧約聖書注解』『NTJ新約聖書注解』があり、旧約48巻、新約35巻の全83巻を予定して2017年から刊行が続いています。2026年4月以降の新刊は教文館から刊行され、既刊も2027年度を目処に教文館へ移管される予定です。

次に、翻訳されたシリーズです。『現代聖書注解』は、現代英米の聖書学者による注解を訳したものです。ただし刊行元の日本キリスト教団出版局は事業を整理し、新刊書籍の刊行を2026年3月で終えました。業務は新会社に引き継がれていますが、既刊の入手経路は変動しています。

『EKK新約聖書註解』は、ドイツ語圏でプロテスタントとカトリックが共同で企画したシリーズの邦訳で、教文館から刊行されています。全巻の訳出には至っていません。

『ティンデル聖書注解』は、いのちのことば社から全48巻で完結しています。ただし品切れの巻が多く、オンデマンドでの受注生産という形での入手になります。一方で、原書の改訂版に基づく新シリーズの翻訳が始まります。2026年10月に『ヨハネの福音書』(コリン・G・クルーズ著、篠原明訳、中島真実監訳、584頁、5,500円)が刊行され、2027年春に『ルカの福音書』『マルコの福音書』、2027年中に『マタイの福音書』が予定されています。全巻の刊行予定は未定とされています。

このほか、シリーズではなく単巻で刊行される注解書も少なくありません。

※キリスト教出版業界が置かれた状況については、別の記事で書きました。

洋書に目を向けると

英語圏では、数多の注解書のシリーズがあります。同じローマ書の注解でも、原語の議論を細かく追うものから、説教準備を念頭に置いたものまで、性格がまるで違います。価格帯にも幅があり、ペーパーバックや電子版を選べば、日本語の学術書より安く手に入ることも珍しくありません。

しかし問題は、どのシリーズが自分の学びに、あるいは目的に適しているのか、よくわからないことではないかと思います。書店の棚に並んでいるわけではなく、シリーズ名だけを見ても中身の見当がつきません。WBCとNICNT(NICOT)とBECNTの名前は聞いても、何がどう違うのでしょうか。

そこで今回は、そのような洋書の注解書を中心にまとめてみました。以下の表は、主要なシリーズの特徴を整理したものです。

表の読み方

対象は、そのシリーズが旧約と新約のどちらを扱うかです。ただし、もともと新約のみだったシリーズに旧約巻が加わることもあります。Pillarは長らく新約だけでしたが、詩篇を第一巻として旧約側の刊行が始まっています。

原語の扱いは、ギリシア語やヘブル語がどう扱われているかを三段階で示しています。原語中心は、本文中に原語の語句がそのまま引かれ、その語句をたどれることが議論の前提になっているもの。原語併記は、原語の語句に音訳や英訳が併記されているため、原語を読まなくても議論の筋が分かるもの。原語補足は、原語の議論が脚注や別区画に置かれ、本文にはほとんど出てこないものです。

原語中心のシリーズであっても、原語の部分を飛ばして英語の議論を読むことはできます。原語が読めるかどうかは、そのシリーズを使えるかどうかの分かれ目ではありません。

立場は、批評学的か福音主義かというおおまかな傾向です。ただしこれはシリーズの編集方針であって、巻ごとに執筆者の判断は分かれます。

ページ数は、ローマ書と創世記の巻のページ数です。同じシリーズでも書によって差が大きいため、比較の基準としてこの二つを選びました。「なし」はその巻がまだ刊行されていないこと、「—」はそのシリーズが該当する聖書部分を扱っていないことを示します。

英語圏では、注解書を critical(学術的)、exegetical(釈義的)、expositional(講解・説教向け)、application(適用・信徒向け)と呼び分けることがあります。英語のサイトでシリーズの説明を読むときに、この語がよく使われますので参考までに。

主要シリーズ一覧

シリーズ出版社対象原語の扱い立場ページ数(ローマ書/創世記)
ICCT&T Clark旧約・新約原語中心批評学的992(全2巻)/なし
HermeneiaFortress旧約・新約原語中心批評学的1000/なし
NIGTCEerdmans新約原語中心福音主義1208/—
Anchor YaleYale University Press旧約・新約原語併記批評学的832/454
WBCZondervan旧約・新約原語併記福音主義1015(全2巻)/912(全2巻)
NICOT / NICNTEerdmans旧約・新約原語併記福音主義1184/1273(全2巻)
BECNTBaker Academic新約原語併記福音主義1040/—
ZECNT / ZECOTZondervan旧約・新約原語併記福音主義768/—
ApOTCIVP旧約原語併記福音主義—/なし
EBTCLexham旧約・新約原語併記福音主義688/なし
OTL / NTLWestminster John Knox旧約・新約原語併記批評学的590/440
PillarEerdmans旧約・新約原語補足福音主義672/なし
TyndaleIVP旧約・新約原語補足福音主義536/496
NIVACZondervan旧約・新約原語補足福音主義544/768
CornerstoneTyndale House旧約・新約原語補足福音主義244/550
InterpretationWestminster John Knox旧約・新約原語補足批評学的244/384

「全2巻」と記した数字は、2巻の合計ページ数です。Cornerstoneのローマ書はガラテヤ書との合本で、244ページはローマ書部分の終わりを示します。

創世記の巻がないシリーズが目につきます。学術系の大部なシリーズは新約に厚く、旧約は刊行が進んでいないことが多いという事情があるようです。ひとつのシリーズを揃えれば全巻が手に入る、というわけではありません。

シリーズ別の詳細

以下の各注解書シリーズの概要と特徴は各シリーズの序文と、実際の巻の記述に基づいています。ただしシリーズによって序文の書かれ方が異なり、方針を明文化していないものもあります。また、同じシリーズでも巻によって構成に幅があります。

ICC(International Critical Commentary)

  • 立場:批評学的
  • 構成:独自訳、区分ごとの注解、本文と語形の注
  • 原語の扱い:原語中心。旧版はラテン語やドイツ語の引用も訳なしで出る
  • メモ:1895年に始まった最も古い学術シリーズ。編者は執筆者の見解に責任を負わず、選任と方針の監督のみを担うと明言している。巻によって刊行年に100年以上の幅がある。

Hermeneia

  • 立場:批評学的。編者は特定の組織神学的立場をシリーズに課さないと明言
  • 構成:独自訳、本文の注、注解、概観
  • 原語の扱い:原語中心。ただし比較資料には必ず英訳が付く
  • メモ:本文批評、伝承史、宗教史を全面的に用いる方針で、旧新約に加えて外典・偽典、エッセネ派やグノーシス主義の文献も扱う。国際的かつ超教派的な執筆陣で、英語以外で書かれた注解の翻訳も収められている。ルツのマタイ福音書注解はその一例で、ドイツ語のEKKから訳された巻である。同じ注解の日本語版は、教文館からEKK新約聖書註解として刊行されている。

NIGTC(New International Greek Testament Commentary)

  • 立場:福音主義
  • 構成:独自訳、本文の注、形式と構造と背景の分析、釈義の注解、聖書神学的な考察、現代への適用
  • 原語の扱い:原語中心
  • メモ:ギリシア語本文を扱うシリーズが長く存在しなかったこと、そして北米や第三世界の福音主義の神学校で原語研究が伸びていることが、創刊の背景として序文に記されている。脚注は古代の史料や碑文にまで及び、原語だけでなく古典学の知識も求められる。

Anchor Yale Bible

  • 立場:批評学的。ユダヤ教、カトリック、プロテスタントの学者
  • 構成:独自訳、語句の注、区分ごとの論述
  • 原語の扱い:原語併記
  • メモ:1956年に Anchor Bible として始まり、のちにイェール大学出版局に移った。ローマ書はカトリックの学者が担当し、教会一致の対話に資することを願うと序文に述べている。

WBC(Word Biblical Commentary)

  • 立場:福音主義。ただし編者は、これを党派的な呼称ではなく、聖書を神の啓示とする立場を指す語として用いると断っている
  • 構成:文献表、独自訳、本文の注、形式と構造と背景の分析、注解、全体の説明
  • 原語の扱い:原語併記。執筆者が自ら原語から訳し、その訳に基づいて注解する
  • メモ:各部は読者の関心の水準に応じて使い分けられるよう設計されている。本文の異同を知りたければ注を、研究状況を知りたければ形式と構造の部を、意味を知りたければ注解と説明を読む、という具合。翻訳巻を含まず、すべて書き下ろし。

BECNT(Baker Exegetical Commentary on the New Testament)

  • 立場:福音主義。伝統的見解を不可侵とせず、同時に流行の理論のために従来の見解を性急に手放さないと表明
  • 構成:文脈の説明、独自訳、注解、要約
  • 原語の扱い:原語併記。本文の異同は訳文中に記号で示され、区分末尾の注へ導く
  • メモ:序文には、福音主義の側が批評的研究を退けるためだけに用いる場合と、逆に対話を重ねるうちに相手の立場に取り込まれてしまう場合の、両方を避けたいという表明がある。難問を避ける表面的な扱いも、あらゆる論点を網羅する扱いも取らず、本文の意味に直接関わる問題に絞る方針。

NICOT / NICNT(New International Commentary on the Old / New Testament)

  • 立場:福音主義。執筆者は複数の教派にわたる
  • 構成:独自訳、導入の論述、区分ごとの注解
  • 原語の扱い:原語併記
  • メモ:主題ごとの補論を挟むこともある。福音主義に立ちながら、正典批評、文学的な読み、読者反応理論といった現代の方法を取り入れている。ジェンダーや民族の視点からの読みへの配慮も明記されており、執筆陣には複数の教派の男女の学者が並ぶ。他説を公平に紹介したうえで自説を述べる方針。サムエル記第一は津村俊夫氏が担当。

ZECNT / ZECOT(Zondervan Exegetical Commentary)

  • 立場:福音主義
  • 構成:文脈の説明、要点の提示、独自訳、構造の分析、釈義的アウトライン、本文の解説、神学的な考察
  • 原語の扱い:原語併記
  • メモ:著者がギリシア語から訳した英訳が、文の構造がわかるように視覚的に配置されている。どの語句がどこにかかり、どの部分がどんな役割を果たしているかを、目で追える形になっている。編集陣が牧師や教師の要望を聞いて設計したと序文にある。

ApOTC(Apollos Old Testament Commentary)

  • 立場:福音主義。旧約の霊感と権威を前提とする
  • 構成:独自訳、本文の注、文学的形式と構造、背景、釈義、解釈史
  • 原語の扱い:原語併記
  • メモ:2002年に刊行が始まり、旧約の書数の半分を超えた段階。注解者は翻訳者と違い、古代の著者と読者の世界を知るだけでなく、自分の時代と文化をも解釈しなければならない、という編者の言葉が序文にある。国際的な執筆陣が特徴で、レビ記は木内伸嘉氏が担当。

EBTC(Evangelical Biblical Theology Commentary)

  • 立場:福音主義。執筆者は全員、聖書の無誤性と霊感を認める
  • 構成:導入の論述、英訳本文、文脈の説明、構造の分析、節ごとの注解、要点の整理
  • 原語の扱い:原語併記
  • メモ:釈義とは別に、その書の神学的な主題をまとめて扱う部分が、釈義の前または後に置かれる。編者はこちらを各巻の主要な貢献と位置づけている。両者には相互の参照先が示され、行き来しながら読める。

OTL / NTL(Old Testament Library / New Testament Library)

  • 立場:批評学的
  • 構成:導入の論述、独自訳、節ごとの注解
  • 原語の扱い:原語併記
  • メモ:本文の異同は訳文の脚注で扱われる。ローマ書のガヴェンタは、罪と死を人格化された力として読む学者として有名。黙示的パウロ理解に立つ注解書は多くないため、この一巻は貴重である。ドイツ語からの翻訳巻も含まれる。

Pillar(PNTC)

  • 立場:福音主義
  • 構成:区分ごとの論述、節ごとの注解
  • 原語の扱い:原語補足
  • メモ:特定の論点は本文から独立した注に置かれる。牧師と聖書教師のために作られたシリーズだと序文にある。編者は、聖書を距離を置いて分析する態度を退け、神の言葉として向き合う姿勢からこそ本文が正しく読めると述べている。そのうえで注解と説教は区別するという一線も引かれている。長らく新約のみだったが、旧約の刊行も始まっている。

Tyndale(TNTC / TOTC)

  • 立場:福音主義
  • 構成:区分ごとの導入、節ごとの注解
  • 原語の扱い:原語補足。原語の知識は前提とされない
  • メモ:批評学的問題は序論と注に記載。一書を通して読むための簡潔な注解となっている。60年以上続くシリーズで、現在は第三期にあたる。改訂で執筆者が交代し、分量が変わることがある。ローマ書はブルースの274ページからガーランドの536ページへ、創世記はキドナーの236ページからシュタインマンの496ページへと、いずれも倍近くになった。この第三期にあたる新シリーズは、2026年から日本語訳の刊行が始まっている。

NIVAC(NIV Application Commentary)

  • 立場:福音主義
  • 構成:本文の意味、文脈の橋渡し、現代への適用
  • 原語の扱い:原語補足
  • メモ:本文の意味から適用に至る過程を、順を追って示す形になっている。学術注解書の執筆者が、同じ書についてこのシリーズでも書いている例がある。

Cornerstone(Cornerstone Biblical Commentary)

  • 立場:福音主義。執筆陣はその中で幅広い立場にわたる
  • 構成:導入、英訳本文、本文の注、注解
  • 原語の扱い:原語補足。注で英訳の背後にある原語を説明
  • メモ:New Living Translation を底本とし、その訳に関わった学者が多く執筆している。複数の書を一巻にまとめる形式のため、一書あたりの分量は他のシリーズより少ない。

Interpretation

  • 立場:批評学的
  • 構成:各箇所ごとの解説
  • 原語の扱い:原語補足
  • メモ:論述の後半では、教える立場や説教する立場に向けて、関連する聖書箇所や扱い方の提案が示される。聖書本文の掲載はない。歴史批評的な注解でも説教の手引きでもない、第三の資料を目指すと編者が述べている。逐語ではなく、説教や聖書研究会で扱う単位に沿う形となっている。邦訳が現代聖書注解として刊行されている。

シリーズで選ぶか、著者で選ぶか

ここまでシリーズごとに大まかな特徴を整理してきましたが、実際の選び方はもう一つあります。それは、著者で選ぶという方法です。

シリーズの性格は編集方針であって、一冊一冊の中身を決めているのは執筆者です。シリーズ名は、その巻の性格を大づかみに示す目安にすぎません。

同じ著者が、読者層の異なる注解を複数書いていることもあります。ダグラス・ムー(Douglas J. Moo)のローマ書は、NICNTでは1184ページの学術注解として、NIVACでは544ページの適用重視の注解として書かれています。学術的な議論まで追いたいときと、説教準備に絞りたいときとで、同じ著者の注解を使い分けることができます。

複数のシリーズで執筆している著者もいます。ウェナムはWBCの創世記を書き、NICOTではレビ記を担当しています。信頼できる著者を見つけたら、その人が他のどのシリーズで書いているかを調べてみる価値があります。

日本語で読める著者が、洋書のシリーズでも書いていることがあります。新しいティンデル聖書注解のヨハネ福音書を担当するコリン・クルーズ(Colin G. Kruse)は、Pillarのローマ書の執筆者でもあります。邦訳で読んだ著者を手がかりに、洋書へ進むということもよいかもしれません。

日本の学者が執筆している巻もあります。ApOTCのレビ記は木内伸嘉氏(Nobuyoshi Kiuchi, 2007)、NICOTのサムエル記第一は津村俊夫氏(David Toshio Tsumura, 2007)が担当しています。木内氏はウェナム氏のもとで学び、そのウェナム氏はNICOTのレビ記を書いています。著者を軸にたどると、こうしたつながりが見えてきます。

また、シリーズに属さない注解書もあります。マイケル・ゴーマン(Michael J. Gorman)のローマ書(Eerdmans, 2022)は単巻で、神学的・牧会的な読みに焦点を絞っています。日本語でも、シリーズとしてではなく単巻で刊行される注解書は少なくありません。全巻を訳し終えるには出版社の側に相当の体力が要ることを思えば、これは自然な形でもあります。

そして、研究や説教準備で特定の書を深く読む場合、著者で選ぶ方が実際的です。一方、蔵書として体系的に揃えたい場合や、どの学者を信頼してよいかまだ判断がつかない段階では、シリーズを基準にすることに意味があります。

入手方法

英語圏の注解書は、大きく四つの経路で入手できます。同じ巻が複数の経路で扱われていることも多く、価格にも差が出ます。

Amazon。紙とKindleの両方があります。紙は、複数の注解書を並べて見比べる作業や、余白への書き込みに向いています。学術系のシリーズは一冊が数十ドルから百ドルを超え、これに国際送料が加わる場合があります。Kindleは紙より安く、まとまった値下げが行われる時期もあります。

Apple Books。他の経路より安い場合があります。WBCの創世記1〜15章(Vol.1)は、Apple Booksで4,000円、Kindleで7,016円でした。NTLの第一・第二ペテロ書、ユダ書は、Apple Booksで2,200円、Kindleで8,798円です。すべての注解書が扱われているわけではありませんが、価格差が大きいことがあるため、購入前に比べてみる価値があります。

LogosとAccordance。聖書の箇所を指定すると、所蔵している複数の注解書の該当箇所が一度に並びます。原語本文との連携もあります。

教文館。東京・銀座の教文館には、洋書の常設コーナーがあります。点数は和書に比べたら多くはありませんが、実際に手に取って中身を確かめられる数少ない場所です。ページの組み方や脚注の量は、開いてみないと分からない部分があります。

※価格と販売形態は変わりますので、購入前に各サイトで確認してください。上記の情報は、2026年8月時点のものです。


参考文献:本記事の各シリーズについての記述は、それぞれの注解書に収められた編者序文および著者序文に基づいています。