C.S.ルイス(1898-1963)が1941年から1944年にかけてBBCラジオで行った講演を書き直した弁証論的著作。著者はオックスフォード大学で英文学を教えた文学者であり、成人後にキリスト教へ回心した。一般聴衆に向けて、キリスト教信仰の知的正当性を平易に論じることを目的とする。全4部から成り、第1部で道徳律の存在から有神論へ、第2部でキリスト教教義の核心(三位一体・贖罪)へ、第3部でキリスト教倫理へ、第4部で神の性質へと議論が展開される。
本書の弁証論的戦略の中心は「道徳律論証」にある。善悪の感覚が文化を超えて人間に普遍的に存在するという観察から、その背後に「道徳律の与え手」の存在を推論する。伝統的な宇宙論的・存在論的論証とは異なり、日常の人間経験を出発点とする点が本書の特徴的な立場である。同時に、書名「ただのキリスト教」(Mere Christianity)が示すように、宗派間の差異を括弧に入れてプロテスタント・カトリック・東方正教会に共通する核心的信仰を提示することを明示的に目指している。
道徳感覚の普遍性という前提については文化人類学的な異論があり、「道徳律の存在→律法の与え手がいる」という推論の妥当性についても哲学的批判が寄せられてきた。本書が一般向け講演の書き直しであるという性格を踏まえた上で読む必要がある。
キリスト教弁証論の古典として最も広く読まれてきた著作のひとつ。信仰を持つ者が「なぜキリスト教を信じるか」を言語化する参照点として、また弁証論的議論の構造を把握しようとする読者にとっても有用である。
