新約聖書学者・山口希生氏による、20世紀以降のパウロ研究、とくに「パウロ神学の新しい視点(New Perspective on Paul、NPP)」の研究史を日本語で体系的に整理した書である。19世紀のF.C.バウルから、A.シュヴァイツァー、W.D.デイヴィス、E.P.サンダース、J.D.G.ダン、N.T.ライトを経て、第3部ではポストNPP世代としてダグラス・キャンベルとジョン・バークレーまでを射程に収めている。

本書の核心は、NPPを孤立した近年の動向としてではなく、19世紀以降の長い研究史の中に位置づける視座にある。著者はNPPの萌芽をバウルにまで遡らせ、後代の研究者がいかに先人の知見を補完・継承していったかを段階的に描き出す。同時に、パウロを過度に神聖視せず、当時のユダヤ人キリスト者の立場にも配慮する姿勢が一貫している。邦訳がN.T.ライトに集中する日本の現状の中で、ポストNPPまで射程に入れた整理が日本語で得られる意義は大きい。

ただし、著者自身が第3部冒頭で断っているとおり、ポストNPPとして紹介されているのはキャンベルとバークレーの「代表的二名のみ」である。R.ヘイズやM.ゴーマンら参与論系の研究者など、本書の枠外に置かれた論者は少なくない。本書はポストNPPの全体像ではなく、最新動向への信頼できる入口として読むのが適切である。

日本語でNPPの研究史を学ぼうとする読者にとって、本書はまず参照すべき一冊である。NPP入門の書であると同時に、すでに親しんでいる読者にとっても、ポストNPP以降の研究の地平への橋渡しとなるだろう。