閉じる

牧師に「社会」経験は必要か?

牧師に対して抱く期待や理解は人それぞれだと思いますが、牧師はある程度の「社会」経験を積む必要があるという声を聞くこともあります。

初めに申し上げますと、個人的には、「どっちでもよい」と思います。なぜなら、どちらのケースでも素晴らしい牧師がたくさんいるからです。

そもそも、社会経験が必要だという考えの根底には、社会経験を積むことで「よい牧師」になれるという先入観があるのではないかと思います。それは何をもってそう考えられているのかと言えば、一つには社会で経験を積むことによって、社会を知り、一人ひとりが直面している問題や状況などに共感するなどといったことでしょう。

もちろんこれらは否定されるものではありませんが、反対に、いわゆる「社会」で働くことなしに牧師になったら、「社会的な経験」をすることがないのかと言えば、それはあり得ません。実際、牧師になってから、社会と関係と無縁でいられるはずがありません。

とすると、結局のところ、「若い」牧師があまり歓迎されていないという現状があると言えるのかもしれません。しかし、多くの教会では若い牧師を期待している現状があるようにも思います。どこでも働き手が少ない中で、若い働き手は貴重です。ここに、若い働き手を望むが、しかし、社会的な経験を積んでいて欲しいというジレンマが生じます。

しかし、そろそろこのような「神話」は崩れ去るべき時期が来ているのではないでしょうか。つまり、「社会的な経験をしていればよい」や「若い方がよい」というのは、本質的な事柄ではないということです。

結局、そのような考えの背後には、牧師は完全であるべきという思い込みが潜んでいるように思われます。しかし、そうだとすると、年配で社会的な経験を積んでいる牧師は「完全」というロジックになりますが、もちろん、そうではありません。何歳であっても、どのような経験を積んでいたとしても、「この人は完全な牧師だ」という人は存在しません。

であるならば、牧師はいくつになっても成長していくべきであり、若ければ…社会的経験を積んでいれば…という考えになることはないと思います。

また、牧師には社会的な経験が必要だ…という意見の背景には、「社会」を知らないと「綺麗事ばかりを説教するのではないか」という意見もあるかもしれません。しかし、はっきり言って、聖書と格闘するなら、そのような結論に至ることはないのではないでしょうか。なぜなら、聖書には、泥臭く、信仰の旅路を歩んだ先人たちの証しで溢れているからです。聖書には綺麗事よりも泥臭さの方が前面に出ていると感じるのは私だけでしょうか。そのような先人たちに想いを馳せて、与えられる深い洞察は、社会的な経験をしたら得られるというものでもありません。

私もこれまでたくさんの牧師に会ってきましたが、多くのことを教えられ、学んできたことを思います。ですが、それは社会的な経験があるからとか、年配だから、若いから…といったことによるのではなく、ただひとえに、聖書と格闘し、探求し続けているからです。もしも私が牧師に求めることを一つ挙げるとすれば、それは聖書を学び続ける姿勢です。ただでさえ、教会に集う方々は忙しい中で、聖書を学ぶ時間は、どうしても限界があります。しかし、牧師にとっての大切な職務の一つは、聖書を学び、そのメッセージを取り次ぐということです。その点だけは、牧師にしかできない務めではないかと思います。

そして、何よりも、このような姿勢は、社会的な経験の有無や年齢によって左右されるものではありません。どのような背景であっても、聖書を学び続ける姿勢を持つことはできます。むしろ、そこに牧師の第一の務めがあるのではないかと思います。また、聖書と真剣に向き合うなら、その語られる言葉が綺麗事になったり、薄っぺらくなることはありません。なぜなら、聖書の中には、様々な葛藤の中で、神を求めながら、何とか前を向いて進もうとする信仰者がたくさん登場しているからです。それらを無視して、聖書のメッセージを語ることはできないのではないでしょうか。

このように、牧師というのは社会的な経験の有無や年齢よりも、個人的には、その姿勢が重要ではないかと考えます。もちろん、年齢の違いによる経験値の差というものはあると思います。ですので、そのような面で若い牧師をサポートするシステムは大切だと思います。ただ、年齢の差によって「良い」牧師か否かは左右されないということです。

このような牧師理解は、日本の宣教とも無関係ではないと思います。牧師に対する理解、また牧師自身の姿勢、自己認識、このような牧師についての総合的な理解の深まりが、教会がより成熟し、豊かな群れとなっていくためには必要不可欠ではないでしょうか。


下記の本は、牧師とは何かについて考えるのにおすすめです。

¥1,045 (2025/12/09 08:01時点 | Amazon調べ)
カテゴリー
URLをコピーしました!