日本のキリスト教人口は少ないと言われて久しいですが、実際は想像よりもはるかに多くの人が生活の中でキリスト教の文化に触れていることもあるのではないかと思います。結婚式をチャペルで行ったり、クリスマスプレゼントをあげたり、もらったり。あるいは、お店で流れている洋楽のBGMが実はクリスチャンミュージックだったということもよく聞く話です。
ですが、そのように実は多くの日本人がキリスト教に触れているにもかかわらず、「キリスト教ってどんな宗教?」と聞かれると言葉に詰まる方がほとんどではないでしょうか。この記事では、キリスト教の基本的な教え・歴史・文化・宗派の違いまでを、できるだけわかりやすく解説します。
①日本人の生活に溶け込んでいるキリスト教
毎年12月になると街中がイルミネーションで輝き、カップルがケーキを食べ、子どもたちがサンタクロースを待ちわびます。春にはイースターエッグが店頭に並び、秋にはハロウィンの仮装が街を賑わせます。あるブライダル会社の統計では、日本の結婚式の約25〜30%がキリスト教式(チャペル式)で行われているとも言われています。
にもかかわらず、長年の間、日本人のキリスト教人口は総人口の約1%程度です。「文化としては身近だが、宗教としてはよく知らない」——それが日本におけるキリスト教の独特な立ち位置です。この記事を通じて、その文化の背景にある「宗教としてのキリスト教」を理解していただければ幸いです。
②キリスト教の基本:何を信じている宗教か
キリスト教は、「神はただ一人(唯一神)であり、その神がイエス・キリストを通して人類に救いをもたらした」と信じる宗教です。世界三大宗教のひとつであり、現在の信者数は約23~25億人。世界最大の宗教でもあります。
キリスト教の核心にあるのは「福音(ふくいん)」、すなわち「良い知らせ」です。では、その「良い知らせ」とは何でしょうか。
よく「罪が赦される」「天国に行ける」という個人的な救いとして説明されることがあります。もちろんそれは福音の大切な側面です。しかし最近の聖書学では、福音のより根本的な意味は「イエス・キリストが王となった」という宣言にある、と理解されるようになっています。
「キリスト」という言葉は「油を注がれた者」、すなわちヘブライ語の「メシア(王)」を意味します。初代キリスト教徒たちが「イエスはキリストだ」と告白したとき、それは単なる宗教的な信仰ではなく、「この世界の真の支配者はカエサル(ローマ皇帝)ではなく、イエスだ」という、当時としては極めて政治的な宣言でもありました。
個人の救いは、この「王の即位」という大きな物語の中に位置づけられます。世界の王が変わったなら、私たちの生き方も変わる——福音はそういう「世界を揺るがす知らせ」なのです。
キリスト教が信じる「三位一体」の神についても触れておきましょう。キリスト教では、神は「父・子・聖霊」の三つのあり方を持つ一人の神として理解されています。これは難解な教義ですが、「父なる神(創造主)」「子なる神(イエス・キリスト)」「聖霊(信仰者の内に働く神の霊)」が、本質において一つの神であるという信仰です。
イエスという人物が、待望の救い主・王・メシアであると信じること——それがキリスト教の出発点です。
③聖書ってどんな本?旧約と新約の違い
聖書は「バイブル」とも呼ばれ、キリスト教の根本的な文書です。全体は「旧約聖書」と「新約聖書」の二部構成になっています。
旧約聖書は、イエスが生まれる前の時代——天地創造から始まり、アブラハム・モーセ・ダビデといったイスラエルの歴史と、神との契約(約束)が記されています。律法(十戒など)、詩篇、預言書など39書(プロテスタント基準)から成り、もともとはユダヤ教の聖典でもあります。
新約聖書は、イエスの生涯・死・復活を記した「福音書」(マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネ)、初代教会の歩みを記した「使徒の働き」、パウロらによる「書簡(手紙)」、そして苦難の中にある信者たちへ「神が歴史の主であり、最終的に勝利する」と告げる「ヨハネの黙示録」など27書から成ります。
合わせて66書(プロテスタント)または73書(カトリック)。カトリックが多いのは、宗教改革の際にプロテスタントがヘブライ語聖書(ユダヤ教の正典)を基準としたため、正典に含まれなかった(しかし、初代教会から読まれてきた)「第二正典」と呼ばれる7つの文書を、カトリックが含むためです。
約1500年にわたって書かれた40人以上の著者による文書が一冊にまとめられている——それが聖書です。「難しそう」というイメージを持たれる方も多いですが、詩・物語・手紙・歴史書など多様なジャンルが含まれており、どこから読んでも発見があります。
④カトリック・プロテスタント・正教会——宗派の違いとは?
キリスト教は大きく「カトリック」「プロテスタント」「東方正教会」の三つに分けられます。それぞれどう違うのでしょうか。
カトリック(ローマ・カトリック教会)は、ローマ教皇を頂点とする世界最大のキリスト教組織です。伝統と典礼を重んじ、信者数は約14億人とも言われています。日本では長崎や京都など歴史的な教会が多く残ります。神父・修道士・修道女といった聖職者制度があり、礼拝はミサと呼ばれます。
プロテスタントは、16世紀にマルティン・ルターらに端を発する宗教改革から生まれた諸教派の総称です。「聖書のみ、信仰のみ、恵みのみ」を原則とし、教皇制度を持ちません。長老派・バプテスト・メソジスト・ペンテコステなど多様な教派があります。日本のプロテスタント教会では聖職者を「牧師」と呼びます。
東方正教会は、1054年の「東西教会の分裂」以降、東ローマ帝国を中心に発展した教会です。ギリシャ・ロシア・東欧などに多く、独特のイコン(聖画像)や典礼が特徴的です。
「神父と牧師は何が違うの?」とよく聞かれます。神父はカトリックや正教会の聖職者、牧師はプロテスタントの聖職者です。一般的には、前者は基本的に独身制で、後者は結婚が認められていることが知られているといったところでしょうか。
⑤クリスマス・イースター・ハロウィン——行事の本来の意味
日本でもおなじみのキリスト教行事ですが、その本来の意味はあまり知られていないかもしれません。
クリスマス(12月25日)は、イエス・キリストの誕生を祝う日です。ただし、12月25日はイエスの実際の誕生日ではありません。聖書には誕生日の記載がなく、この日付は4世紀頃、当時ローマ帝国で広く祝われていた冬至の祭りと結びつける形で定着したと考えられています(諸説あり)。そして、「クリスマス(Christmas)」とは、「キリスト(Christ)」と「礼拝(Mass)」を合わせた言葉が語源で、本来は礼拝と祈りの日です。
イースター(復活祭)は、十字架で死んだイエスが三日目によみがえったことを祝う、キリスト教最大の祝日です。春分の後の最初の満月の次の日曜日と定められており、毎年日付が変わります。クリスマスが「誕生」を祝うのに対し、イースターは「復活」を祝う日であり、キリスト教神学の中心に位置します。卵やうさぎのモチーフは「新しいいのち」の象徴として用いられるようになりました。
ハロウィン(10月31日)は、もともとケルト民族の祭りが起源とされ、カトリックの「諸聖人の日(11月1日)」の前夜祭として「All Hallows’ Eve」と呼ばれるようになりました。キリスト教との関係は間接的で、今日の仮装やお菓子の風習は現代のアメリカ文化が大きく影響しています。
⑥キリスト教が世界に与えた影響
西洋文明の根幹にはキリスト教が深く根付いています。美術・音楽・文学・建築・倫理観・法律——あらゆる分野においてキリスト教の影響は計り知れません。
美術の分野では、ミケランジェロの「天地創造」(システィーナ礼拝堂)、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」、レンブラントの聖書画など、西洋絵画の多くは聖書の場面を題材としています。音楽ではバッハ・ヘンデル・モーツァルトらが宗教音楽で後世に多大な影響を残しました。
倫理・法律においても、「すべての人間は神の前に平等である」というキリスト教的世界観が、人権思想や民主主義の発展に大きな役割を果たしました。近代の病院・学校・福祉の多くも、キリスト教の「隣人愛」の精神から始まっています。
日本においても、明治時代に設立されたミッションスクール(同志社・青山学院・明治学院など)や、社会福祉施設の多くがキリスト教を背景に持っています。
⑦もっと知りたい方へ——聖書の読み始め方
ここまで読んでくださった方の中には、「もう少し聖書を読んでみたい」と思った方もいるかもしれません。聖書は決して難しい本ではありません。いくつかのおすすめの読み始め方をご紹介します。
「どこから読めばいいですか?」とよく聞かれます。ですが、特定の箇所をおすすめするよりも、気になったところから読み始めることをおすすめします。聖書は一冊の本というより、多様なジャンルの文書が集まった「図書館」のようなものです。詩が読みたければ詩篇を、物語が読みたければ福音書を、人生の知恵を求めるなら箴言を。「読みたい」という気持ちを大切にしてください。挫折するとすれば、それは読む順番のせいではありません。
当サイト「ぼくしのどくしょ」では、聖書各書のショートメッセージや聖書研究の記事を通じて、聖書をもっと身近に感じていただけるコンテンツを発信しています。「聖書の全体を学ぶ」ページもぜひ参考にしてみてください。
まとめ
キリスト教は、長い歴史を持ち、また世界最大の宗教でありながら、同時に、その核心は意外なほどシンプルです。
それはすなわち、「この世界の王は誰か」——。
その問いへの答えとして、イエス・キリストという人物が歴史の中に現れた。それがキリスト教の出発点です。
クリスマスやイースターの向こうに、長い歴史と深い問いを持つ信仰の世界が広がっています。この記事が、その扉を少し開くきっかけになれば幸いです。
