英語圏のパウロ研究の現状を概観した論集である。編者はNijay K. Gupta、Erin M. Heim、Scot McKnightの3名、執筆陣は17名にのぼる。全体は二部構成で、第一部はメシア論、ユダヤ教との関係、救済論、聖霊、ジェンダー、帝国研究、ポストコロニアル批評などの主要トピックを横断的に扱い、第二部はローマ書からピレモン書まで、パウロ書簡13通すべての研究動向を書簡ごとにまとめる。同編者らによる『The State of New Testament Studies』(2019)の姉妹編にあたる。

本書の核心は、特定の自説を展開することではなく、現在のパウロ研究の地形図を提示することにある。とりわけ第一部第3章で示される救済論の整理は注目に値する。従来「改革派 対 NPP」の二項対立として語られてきた議論が、改革派、新視点(NPP)、ユダヤ的視点(PwJ)、黙示的視点、参与的視点という五つの視点へと再整理される。NPPがもはや「最新の動向」ではなく、五つの視点のひとつとして相対化されている点に、英語圏研究の現在地が明瞭に示されている。書簡の真正性をめぐる議論についても、「真正書簡か偽名書簡か」の二分法から、筆記者の関与や「正典としてのパウロ」という枠組みへとシフトしている現状が描き出される。

英語の論集であり、邦訳は存在しない。また概観の性格上、各論点の深い議論は個別の研究書にあたる必要がある。

日本でNPP系の主要著作の翻訳がようやく出揃いつつある現在、その「先」を見通すための標準ガイドとして、当面のあいだ参照価値を持ち続ける一冊である。