ユダヤ教(マーク・ツヴィ・ブレットラー)、カトリック(ダニエル・J・ハリントンS.J.)、プロテスタント(ピーター・エンス)の三人の聖書学者が、歴史批判的方法による旧約聖書研究と信仰共同体の伝統との関係を論じた共同論集である。原タイトルはThe Bible and the Believer、訳者は魯恩碩。各論者がまず自身の伝統からの方法論的省察を提示し、それに他の二人が応答する三層構造をとる。 

本書の核心は、「神の霊感を受けて書かれた聖なる文書として読むか、それとも人間の手によって書かれた歴史的および文学的テキストとして読むか」という二者択一を退ける点にある。各論者は各々の伝統の解釈史を踏まえつつ、批判的読解が必ずしも信仰の侵食を意味するわけではなく、むしろ伝統内部で受けとめ直しうると論じる。プロテスタント担当のエンスは、聖書批判をめぐる福音主義内部の硬直を「困難な対話」として正面から扱っており、日本の改革派・福音派の文脈に最も直接的に響く論考である。 

ただし、三者の立場を併置することに重点があるため、ユダヤ教とキリスト教の旧約観の根本的差異や、近代以降の聖書批判をめぐる神学的論争の細部が応答の中で十分に掘り下げられているとは言いがたい。本書は問題提起と方向性の提示に主眼があり、各論点の詳細は読者が別途追う必要がある。

歴史批判的方法と信仰的読解の関係を整理しようとする牧師・神学生にとって、まず参照すべき論集である。