教育者・湊晶子氏による、自伝的な回想と家族史を織り交ぜた書である。100頁に満たない分量の中で、明治以降5代にわたって信仰を継承してきた家族の歩みを辿りつつ、戦後のアメリカ留学(フルブライト奨学金)、帰国後の日本での教育者としての経験、人格教育の構想などが語られる。本書の中心は第2章「明治・大正・昭和をキリスト者として生きた家族たち」に置かれている。
本書の核心は、信仰の世代継承という長い時間軸と、著者自身の個人史を重ね合わせて記述する点にある。著者は5代目のキリスト者として、自分の信仰と職業観の形成を家系の中での位置として理解する。教育者としての歩みからは「ライフキャリア」という概念が提示され、「報酬が得られる職業に就いている時だけがキャリアではない(中略)各個人が全生涯にわたって形成した労働生活全体がキャリアである」(30頁)と再定義される。新渡戸稲造を引きながら、横の競争関係だけでは自己が確立されず、神との縦の関係が必要であるという人格教育の主張が、本書全体を貫いている。
本書は学術的な家族史研究でも、教育論の体系的な提示でもない。100頁弱の分量に複数のテーマが凝縮されており、各話題は深く掘り下げられるよりも、著者の生涯を貫く視点として連ねられている。これは本書の制約というよりも、回想録的な記述形式の選択である。
明治期以降の日本におけるキリスト者家族の信仰継承を、当事者の証言として読める稀少な書である。同時に、競争社会の中で「キャリア」概念を捉え直そうとする読者にとっても、人格教育の伝統に立つ視点を提供する。短い分量のうちに、戦後日本のキリスト教教育者の足跡を辿れる位置に立っている。
