本書は、英国を代表する新約聖書学者リチャード・ボウカムが、オックスフォード大学出版局のVery Short Introductionsシリーズの一冊として書き下ろしたイエス研究の入門書である。一世紀パレスチナのユダヤ人としてのイエスを、福音書に基づき歴史的に再構成する試みである。

本書の核心は、福音書を生前のイエスを知る者たちの目撃者証言におおむね基づくテクストとして読む立場の提示にある。著者の主著『イエスとその目撃者たち』で展開された議論を踏まえつつ、神の王国の宣教者・実践者としてのイエス像、その死と復活、初期教会におけるキリスト論的解釈までを、約200頁に凝縮して提示している。様式史・編集史以後の福音書研究を「目撃者証言」というジャンル理解によって組み直そうとする立場が、入門書の枠内で簡潔に示されている点に特色がある。

ただし、「入門」を冠する割に内容は凝縮されており、福音書本文と新約聖書学の基本的な議論にある程度親しんでいないと議論の射程をつかみにくい箇所もある。巻末の文献案内が未邦訳書中心である点も、日本語読者には惜しまれる。

歴史的イエス研究の現状と、福音書を歴史資料として再評価する近年の潮流を、コンパクトに把握するための一冊である。

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